名前は確か､くみちゃんだった｡20歳すぎに知り合った､私より3つくらい上の人を､ふいに思い出した｡平和な一般家庭で育ったという印象はなく､明るい顔をしているのに､どこか哀愁があり､肌は浅黒かった｡パッチリ大きな目に､ふわっと流した明菜ちゃんみたいな髪型をしていた｡ こんなふうに思い出す時って､向こうも私を思い出していたりするんだよね｡だけど､くみちゃん､ちゃんと生きているのかな？
土曜のお昼にミートソースを作った｡冷蔵庫に玉ねぎが残ってたから､ちょうどいいやと久しぶりにアレを買ってきた｡ アレを教えてくれたのが､くみちゃんだった｡
職場の上司を通して知り合ったんだっけ？近くに住んでいると知って､遊びに行ったことがある｡2階まで鉄骨の柱で､3階が住居という変わった家｡その家の玄関が地上につながっていた｡つまり崖っぷちの下から建っているような､説明が難しいが､よくこんな所に住んでいるなと思ってしまう家に､くみちゃんは彼氏と暮らしていた｡私はどうしても中に入る勇気がなく､玄関からくみちゃんを呼ぶと､従姉妹だという女の人が出てきて､くみちゃんと一緒に料理をしているところだったという｡ 暗い過去を背負ったような目付きをしていて､仲間にはなりたくないなと感じてしまった｡その時くみちゃんが作っていたのがミートソースだった｡ 私は缶詰のミートソースを温めてパスタにかけるのが定番だったから､作れるの〜？すご〜いって言ったら､これを使うのって､見せてくれたのがルーミックの箱だった｡
くみちゃんは歌が上手かった｡地元のカラオケ大会で優勝した時に歌ったのが『桃色吐息』だ｡私も一度だけ､くみちゃんが歌う桃色吐息を聴いたことがある｡酒焼け気味の低音で歌いこなす､自信に満ちたくみちゃんを見て､さすが王者だと思った｡
あの家に､泥棒が入ったこともあった｡ある日､家に帰ると､誰もいないはずの部屋に電気がついていて､見知らぬ人がテレビの前でくつろいでいたらしい｡ それからどういうことになったかは覚えていないが､泥棒は捕まったのに､盗られた物は警察ではなく自分で交渉しないと戻って来ないんだとかそんなことを言っていた｡ 起こる出来事もなんだか自分とはかけ離れていると感じた｡そして､次第に会わなくなっていった｡
何年後だったか､くみちゃんかな？と思う人と町ですれ違ったことがある｡ずいぶんふくよかになっていたけど､肌の色と瞳で「ん？」て思ったら､向こうも「ん？」て顔して､そのまま通り過ぎた｡
懐かしいミートソースを味わいながら､ふとあの家を見たくなって､買い物ついでに行ってみた｡うっそうと茂った木に囲まれて､まだ誰かが住んでいる様子だ｡土台のコンクリートにヒビが入って､みるからに危険な状態だった｡曇り空のせいもあり､すぐに頭痛がして来てはいけない場所なんだなって分かった気がした｡ もう生きている間にくみちゃんに会うことはないのかもしれない｡ だけど､スーパーでルーミックの箱を見るたびに､あの歌声を思い出すのだ｡
顔を思い出せない人も､もう亡くなって会えない人も声だけは鮮明に残っている｡ 目に見えるものより､見えないものが真実だというように､カタチのない声の記憶が､心の奥で生き続けている。
言葉足らずの愛を 愛を貴方へ
私は決して今を 今を憎んではいない
歪んだ雲が空を 空を濁して
私の夢は全て 全て置いてきたの
命ある日々 静かに誰かを愛した日々
空が晴れたら 愛を 愛を伝えて
涙は明日の為 新しい花の種
恋に焦がれた人は 人は天の上
いつかあの場所で強く 強く手を結び抱いて
緑ゆれてる 貴方の声が聞こえた気がする
空が晴れたら 逢いに 逢いに来て欲しい
涙は枯れないわ 明日へと繋がる輪
木漏れ日と笑う 大切な人を
失う未来なんてこないで？
空が晴れずとも 愛を胸に祈るわ
貴方に刺さる雨が
風になり 夢を呼び 光になるまで
空が晴れたら 愛を 愛を伝えて
涙は明日の為 新しい花の種
空が晴れたら 逢いに 逢いに来て欲しい
涙は枯れないわ 明日へと繋がる輪
言葉足らずの愛を 愛の花を貴方へ
『愛の花』あいみょん🌼
五月病に気をつけましょう💦深呼吸だにゃ
ようこそ、あんずのくにへ
